高専から法学部へと編入学して経験したこと

はじめに

 就職と編入のどちらを選んでも、青春時代を過ごした高専という名の楽園を離れ、新しい環境へ飛び込むのですから、必ず苦労がそこにはあると思います。就職した友人も理系学部もへ進んだ友人も皆、何かしら苦しんでいます。そういう意味では、高専を卒業してから「苦しみから逃れる」ことは不可能です。

 だからこそ、「何に苦しむのか」を知った上で進路を決断することは極めて有益です。一度しかない人生で、覚悟も固めないままに適当に進路を選択して後悔するのは本当に勿体無いです。そこで、ここに巷では知られていない「高専から法学部へと編入した場合、何に苦労するのか?」を書き残しておきます。高専から法学部への進学を検討しているのであれば、これらのことを念頭に置いた上で決断することをお勧めします。

 

法学部進学に伴う苦労とは

①単位認定が受けられない

 高専から法学部へと編入した場合、単位認定は殆どありません。つまり、「通常の文系大学生が4年かけて取得する卒業要件単位を2年で取得」しなければなりません。さらに、進路関係で多忙を極める4回生前期は単位回収が困難ですから、実質「1年半(3ターム)で4年分の卒業要件単位を取得する」必要があります。さらに、法科大学院や公務員を目指す場合には卒業要件単位の取得に加えて予備校へダブルスクールをする必要があります。その場合の負荷は相当なものとなります。

 

②基礎導入科目を受講できない

 取得しなければならない単位の量も辛いですが、そのうえ、「基礎導入科目を受けないまま法律科目を受講しなければならない」ことが重くのしかかります。法学部に1回生で入学した場合、まずは基礎導入科目(「法律の基礎」「憲法入門」など)を受講して「法律を学ぶ」土壌を整えた後に、法律科目(「憲法」「国際法」)を学びます。しかし、編入生の場合、基礎導入科目を受講できず、入学直後から法学部3回生達と共に法律科目を学ばなければなりません。自分は「六法の引き方」も「法とは何か」も知らないまま、「憲法」や「刑法」といった法律科目を学ぶ羽目になりました。

 

③入学直後から始まるゼミが大変 

 入学9日目にはゼミが開講し、(法律学習経験が2~3年ある)法学部生と議論することも要求される様になりました。大学によってはゼミが必修科目となっており、逃れることはできません(ゼミに参加しないのは勿体無いですが)。そのうえ、自分は最初のゼミ発表を担当することとなり、法学どころか大学内のトイレの位置さえ知らない入学10日目からゼミ発表の準備を開始する羽目になりましたが、この時の緊張は今でも思い出します。

 

④編入生はマイノリティである

 国公立大学の法学部は学生の数も同学年100人程度という狭い世界です。そのため、大抵の学生は「同級生かどうかは顔を見れば分かる」状態です。そのため、「同級生と認識して貰えない」ことが通常です。さらに、一般入試から入学した学生は「クラス」に所属していますが、編入生は「クラス」に所属できませんし「担任の先生」もいません。

 

⑤就職活動で苦労する

 高専生であれば一度は「高専卒では出世できないのではないか」と悩んだ経験があると思います。しかし、入社後の出世の心配よりも、まず先にすべきは「どの会社に入社するか」です。そして、文系の場合、高専の様に「大企業から求人票が来る」ことも「学校推薦をとって最終面接からスタートする」こともありえません。全て自力です。

 文系の就職活動の場合、「就職説明会を回って、筆記試験やSPIを通過して、3回以上も面接を潜り抜けて最終面接へ挑み内定する」プロセスが一般的です。大企業の場合、10人程度の採用枠に何千人ものエントリーがあることも珍しくないです。自分は最終的に40社以上にエントリーしました。

 法学部に入学して初めて認識しましたが、高専の就職力は凄まじいです。意欲があれば大企業に入れる可能性が高く、就職活動にやる気がない学生さえも最終的には内定を獲得する高専の就職力は異様です。文系の就職活動では意欲があっても望みが叶う可能性は低く、就職活動にやる気がない学生は淘汰されます。高専の就職力を切ってまで法学部に来る価値があるかについては冷静な判断が必要です(私はあると思っていますが)。

 とうの昔に「旧帝大法学部なら楽に就職できる」時代は終わっています。さらに言えば、日本企業は「学歴で出世の可否が決まる」程、無能ではないと思います。その様な人事をしている会社が仮に存在したとしても、将来性があるとは到底思えません。

 

意外となんとかなる

 正直、なんとかなります。人間関係に関する問題は「能動的に行動すれば解消可能」ですし、学業に関する問題は「真面目に勉強すればできる」と思います(真面目に勉強さえすれば「S」評定も十分に取得可能です)。

 就職に関しては「人による」とは思いますが、①高専からは就職不可能だった商社・マスコミ・金融機関などに応募できるというメリット、②総合職採用を狙うことができるメリット、③幅広い業界を見たうえで納得のいく進路決定ができるメリットもあります。私も最終的には第一志望の会社から内定を頂くことができましたし、メガバンクや電機メーカーからも内定を貰えました。

 結局は本人次第、ということなのでしょうね。ただ、進路選択にあたっては冷静な判断が必要であるということだけは念押ししておきます。